現代日本において「若者の保守化」や「ネット右翼の台頭」、「社会の分断」といった言葉が飛び交わない日はありません。しかし、それらは果たして「事実」なのでしょうか。それとも、単なる私たちの「印象」に過ぎないのでしょうか。
こうした問いに対し、主観や感情を徹底的に排除し、膨大な統計データと厳密な社会調査の手法を用いて「日本の真の姿」を浮き彫りにし続けているのが、早稲田大学教授の田辺俊介氏です。
田辺俊介教授のプロフィール:理論と実践を繋ぐ経歴
田辺俊介氏は、膨大なデータを駆使して人々の意識の変容を捉える「計量社会学」の旗手として知られる研究者です。
基本情報・学歴
- 生年: 1976年
- 学歴:
- 栄光学園高等学校 卒業
- 東京都立大学人文学部 卒業
- 東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程 単位取得退学
- 学位: 博士(社会学・東京都立大学)
- 専門分野: 社会意識論、計量社会学、社会調査方法論、政治社会学
田辺俊介(たなべ しゅんすけ)氏は1976年生まれ。神奈川県の進学校である栄光学園高等学校を卒業後、東京都立大学人文学部へ進学しました。
同大学大学院社会科学研究科で博士号を取得するまで、一貫して社会学の最前線で研鑽を積んでいます。
略歴
大学院修了後、日本学術振興会特別研究員を経て、東京大学社会科学研究所の助教・准教授を歴任しました。同研究所の「社会調査・データアーカイブ研究センター」で、日本最大級の社会調査データの蓄積と活用に携わった経歴を持ちます。2013年に早稲田大学文学学術院准教授に着任し、2017年より教授を務めています。
彼のキャリアにおいて特筆すべきは、東京大学社会科学研究所での経験です。
同研究所は、日本における社会科学のデータアーカイブ(SSJデータアーカイブ)の拠点であり、田辺氏はここで数多くの公的・私的な調査データの管理・分析に携わりました。
この時期に培われた「データに対する厳格な姿勢」が、現在の彼の研究スタイルの根幹となっています。
2013年に早稲田大学文学学術院に着任して以来、現在は教授として、後進の育成と、多国間比較調査を含む国際的な研究プロジェクトを牽引しています。
田辺俊介教授の主要な著作と研究テーマ:数字が語る「右傾化」の正体
主な著書
- 『ナショナル・アイデンティティの国際比較:ISSDP調査資料の分析』(慶應義塾大学出版会、2010年)
- 日本人の自国に対する意識を国際的な視点から分析した専門書です。
- 『日本人は右傾化したのか:データ分析で実像を読み解く』(編著、勁草書房、2019年)
- 「日本人は近年、保守化・右傾化している」という言説に対し、長期的な世論調査の結果から多角的に検証を加え、大きな注目を集めました。
- 『民主主義の「危機」:格差・分断・ポピュリズムのなかで』(編著、勁草書房、2020年)
- 『格差と分断/排除の諸相を読む』(共編、晃洋書房、2022年)
- 『復帰50年の沖縄世論:本土との意識差をデータで読み解く』(共著、筑摩書房、2022年)
田辺氏の名を一般に広く知らしめたのは、編著書『日本人は右傾化したのか:データ分析で実像を読み解く』(勁草書房)でしょう。
この本で田辺氏は、1970年代から現代に至るまでの膨大な世論調査データを再分析しました。
世間では「日本人は右傾化している」という言説が定説のように語られていましたが、田辺氏が導き出した結論は、より複雑で示唆に富むものでした。
- 「右傾化」ではなく「リベラルの衰退」: 多くの日本人が右翼的な思想に傾倒したというよりは、かつての革新派やリベラルな価値観を支持していた層が縮小し、その結果として相対的に現状肯定派が目立つようになったという構造を明らかにしました。
- 若者の「リアリズム」: 若層が保守化していると言われる現象についても、政治的イデオロギーへの傾倒ではなく、生活の安定を求める「消極的現状肯定」の側面が強いことを指摘しました。
また、『ナショナル・アイデンティティの国際比較』では、日本人の愛国心や自国意識が、諸外国と比較してどのような特徴を持つのかを科学的に証明しました。
これらの仕事は、感情論に陥りがちなナショナリズム論壇に、冷徹な「エビデンス」という楔(くさび)を打ち込むものでした。
田辺俊介教授の人物像とエピソード:冷徹な分析者、情熱的な教育者
田辺氏がどのような人物であるかを語る上で欠かせないのが、その「誠実さ」と「バランス感覚」です。
徹底した「中立性」へのこだわり
社会学の研究者には、自身の政治的信条を強く打ち出すタイプも少なくありません。
しかし、田辺氏はインタビューなどで「社会学者は医者のようなものであるべきだ」という趣旨の発言をしています。
つまり、社会という患者がどのような状態にあるかを正確に診断することが職務であり、そこに個人の好き嫌いを持ち込んではならないという信念です。
彼と議論した学生や記者は、「どんなにセンセーショナルな話題を振っても、田辺先生は必ず『データではこうなっていますね』と、一度冷静な土俵に引き戻してから話し始める」と語ります。
この徹底した客観性が、彼の言葉に重みを与えています。
ゼミでの「厳格な」指導
早稲田大学での田辺ゼミは、学生の間で「ハードだが確実に力がつく」と評判です。
社会調査士の資格取得を目指す学生も多く、統計ソフトの使い方から、アンケートの設問文一行の表現に至るまで、徹底的な指導が行われます。
「質問の仕方が1文字違うだけで、回答は10%変わる」――。
こうした細部へのこだわりを叩き込まれた教え子たちは、マスコミ、調査機関、官公庁など、情報を扱うプロフェッショナルとして多くの分野で活躍しています。
一方で、ゼミの合宿や懇親会では、学生と同じ目線でフランクに語り合う一面もあり、そのギャップが学生たちに慕われる理由の一つとなっています。
趣味と素顔
多忙な研究生活の傍ら、田辺氏は音楽や文化全般に対しても深い関心を持っています。
彼の分析対象が「サブカルチャーと政治意識」にまで及ぶことがあるのは、彼自身が現代文化の良き理解者であるからに他なりません。
また、栄光学園出身ということもあり、論理的な思考を重んじる校風が彼の人格形成に影響を与えていることが伺えます。
無駄を嫌い、本質を突く語り口は、まさに「合理的」という言葉が似合います。
社会への貢献:沖縄世論と格差問題への眼差し
近年、田辺氏が注力しているテーマの一つに「沖縄」があります。
共著『復帰50年の沖縄世論』では、本土と沖縄の間に横たわる意識の溝を、感情的な対立としてではなく、構造的な「意識差」として可視化しました。
基地問題や経済格差について、双方がどのような前提で語っているのかをデータで整理することは、泥沼化する議論に「対話の入り口」を作る作業でもあります。
また、格差社会についても、単に「貧困層が増えた」と嘆くのではなく、「格差が広がることで、人々の連帯感や他者への寛容さがどう失われていくのか」を計量的に解き明かそうとしています。
彼の視線は常に、数字の向こう側にいる「生きた人間」の苦悩や変化に向けられているのです。
まとめ:田辺俊介が示す「知性のあり方」
情報の濁流の中で、私たちはしばしば「見たいものだけを見、信じたいものだけを信じる」という罠に陥ります。
SNSでエコーチェンバー現象が加速する現代において、田辺俊介氏のような「データという鏡」を突きつける存在は、社会の理性を保つために不可欠です。
彼の仕事は、私たちにこう問いかけています。
「あなたのその怒りや不安は、本当に事実に根ざしたものですか?」
早稲田大学というアカデミズムの拠点を中心に、彼の研究はこれからも日本の現在地を照らし続けていくことでしょう。
私たちが社会を正しく変えていくためには、まず社会を正しく知ることから始めなければならない。
田辺俊介氏は、そのための最も信頼できるガイドの一人です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

