国立長寿医療研究センターの島田裕之氏の研究にもある通り、単に「免許を返納させる」ことがすべてではありません。
運転をやめた高齢者は、要介護状態になるリスクが約8倍、認知症になるリスクが2~3倍にもなるとの調査報告があり、運転継続は健康寿命の延伸に直結します。
運転に不安をかかえる高齢者やその家族が最も知りたい「いつまで運転できるか?」という問いに答えるためには、「誰もが安心して運転できる社会」の実現が不可欠です。
それは、「人・車・環境」の3つの側面から、高齢者を多重的にサポートする社会です。
本記事では、この重要な社会課題の解決に挑む、国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター長である島田 裕之(しまだ ひろゆき)氏のプロフィール、そして科学的知見に基づいた「運転寿命」の研究とその成果を詳しくご紹介します。
島田裕之の経歴・学歴・プロフィール
島田裕之氏は、リハビリテーション医学や老年学を専門とする研究者・理学療法士です。
日本の超高齢社会が抱える認知症予防やフレイル(虚弱)対策を主要な研究テーマとし、具体的な介入プログラムの開発と効果検証の最前線に立っています。
| 項目 | 詳細 | 補足情報 |
| 現職 | 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター長 | 2019年より現職。センターにおける老年学・社会科学分野の研究を統括。 |
| 専門分野 | 老年学、リハビリテーション医学、認知症予防、フレイル予防 | 理学療法士としての知見を基に、運動と認知機能の関連性を深く研究。 |
| 最終学歴 | 北里大学大学院 医療系研究科 博士課程修了 (2003年3月) | 2025年12月現在、50歳から51歳と推測されます。 |
| 主な経歴 | 2003年:東京都老人総合研究所 研究員 2010年:国立長寿医療研究センター 室長 2014年:同センター 予防老年学研究部長 | 研究者として一貫して高齢者の健康課題に取り組んでいます。 |
| 兼任 | 名古屋大学、信州大学大学院、同志社大学などで客員教授を兼任。 | 後進の指導と研究の普及にも貢献。 |
国立長寿医療研究センター(NCGG)の役割
島田氏が中核を担う国立長寿医療研究センター(NCGG)は、高齢者の心と体の自立を促進し、健康長寿社会の構築に貢献することを理念とする、日本で唯一の高齢者医療に特化した国立研究開発法人です。
- 総合的な取り組み: 病院部門での高度先駆的な高齢者医療の提供と、研究所部門での老化・老年病の研究開発を一体的に行っています。
- 研究の焦点: 認知症とフレイルという、高齢者の自立を脅かす二大課題の予防法や治療法の開発に重点を置いています。
- 社会貢献: 研究成果を政策提言につなげるとともに、「コグニサイズ」などの認知症予防のための具体的な介入方法を全国に普及させる役割も担っています。
科学的視点から迫る高齢者の「運転寿命」研究
島田氏らの研究グループは、高齢者が**「いつまで安全に運転できるか」という問いに対し、「運転寿命」**という概念を掲げ、科学的なエビデンスに基づく評価と介入方法の開発に取り組んでいます。
1. 運転寿命の定義と意義
「運転寿命」とは、高齢者が事故のリスクを低く保ちながら、生活の自立に必要な移動手段として安全に自動車を運転できる期間を指します。
運転継続が健康寿命に直結するというデータがあるため、この期間を最大限に延伸することが重要です。
2. 認知機能と運転技能の関連性
高齢者の事故リスクの増加は、単なる視力や筋力の問題だけでなく、加齢に伴う認知機能の低下と強く関連しています。
- キーとなる機能: 運転中に標識、信号、歩行者、他車など複数の情報を同時に処理する「注意分割能力」や、危険を察知してブレーキを踏むまでの「反応速度」のわずかな低下が、重大な事故につながります。
- 科学的アプローチ: 島田氏らの研究では、これらの認知機能を客観的に評価するため、VR技術を用いた運転シミュレーターや、実際の運転時における視線や操作データを分析する手法が活用されています。
3. 介入プログラムの効果検証
研究の具体的な成果の一つは、機能低下を防ぎ、運転寿命を延ばすための介入プログラムの検証です。
- トレーニング: 認知症予防プログラムとして知られる「コグニサイズ」(認知課題と運動を同時に行う)の要素を取り入れた運転技能訓練が、高齢ドライバーの認知機能や実車時の安全運転行動に及ぼす影響を研究し、その有効性を示しています。
- 個別化: 法定の検査だけでは難しい、個人ごとの運転の「弱点」を抽出し、「夜間の運転を控える」「特定の交差点を避ける」といった個別化された安全運転のアドバイスを提供するための科学的根拠を確立しています。
島田裕之の経歴プロフ・国立長寿医療研究センターが迫る運転寿命の科学【クロ現】まとめ
島田裕之氏が推進する「運転寿命」の研究は、高齢者が「移動の自由」と「社会の安全」という二律背反の課題を両立させるための鍵です。
この研究の目指すところは、単に「いつまで運転できるか」の線を引くことではなく、「人・車・環境」の3つの側面から、高齢者を多重的にサポートする社会の実現です。
- 人: 定期的な「運転ドック」による客観的な能力評価と、認知・身体機能維持のためのトレーニングの普及。
- 車: 衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全技術の標準装備化による、ヒューマンエラーの機械的補完。
- 環境: 運転を卒業した後の生活の質を維持するための、デマンド交通や地域共助などの代替移動手段の充実。
島田氏らの科学的知見は、高齢ドライバー本人やその家族の不安を軽減し、誰もが安心して暮らせる長寿社会を築くための具体的なロードマップを示しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。

