都会での会社員生活から一転、兵庫県丹波市に移住し、農業という新たな人生の楽園を見つけた古谷浩二郎さん(49歳)と妻の幸子さん(54歳)。
システムエンジニアという前職とはまったく異なる分野で、「キレイで美味しい野菜」づくりに情熱を注ぐお二人の軌跡と、丹波の地で築き上げた「丹波みの香ファーム」の魅力に迫ります。
この記事では、古谷夫妻のプロフィールはもちろん、兵庫県丹波市に移住するきっかけや、就農するために入学した農(みのり)の学校について、そして夫妻が立ち上げた『丹波 みの香ファーム』についても紹介します。
移住を考えている人や農業を始めたいけど何をすればいいかわからない人にとって、古谷夫妻の行動力はとても参考になると思います。
ぜひご覧ください。
古谷浩二郎・幸子のプロフィール
古谷浩二郎さんは、大阪府出身。
東京でコンピューター関連のシステムエンジニア(IT系サラリーマン)として長年働いていました。
妻の幸子さんは和歌山県出身で、浩二郎さんとは転勤で上京した際に会社の先輩として出会い、2011年に結婚されました。
浩二郎さんは、都会で働く傍ら、ベランダの植木鉢から野菜作りを始め、やがて貸し農園を利用するほど家庭菜園に夢中になっていきました。
これが後の大きな転身へと繋がる、農業への関心の始まりです。
貸し農園ではなかなか満足のいく野菜を育てられず、悔しい思いをしたことも、本格的な就農を決意するきっかけの一つとなりました。
古谷夫妻の移住のきっかけ
システムエンジニアとして多忙な日々を送る中、休日の旅行が二人のリフレッシュタイムでした。そして、ある旅先での出来事が、古谷夫妻の人生を大きく変える「運命の転機」となります。
それは、旅先の宿で食べた採れたての生のトウモロコシの美味しさに浩二郎さんが衝撃を受けたことです。
「こんなに採れたてが美味しいのなら自分で作ってみよう!」と決意し、家庭菜園を本格化させますが、知識や技術の限界を感じ、納得のいく野菜を作ることはできませんでした。
そんな時、家庭菜園をしていた貸し農園から、新規就農者を育てる「丹波市立 農(みのり)の学校」の募集案内チラシが届きます。
浩二郎さんは、まず東京・新宿で開催された説明会に参加し、有機農業を実践的に学べる内容に強く惹かれました。
もともといつかは生まれ育った関西へ戻るつもりでいたため、野菜作りへの関心と関西回帰の思いが結びつきました。
都会での生活に少し疲れていたのか、妻の幸子さんのほうが移住にはノリノリだったというエピソードが残っています。
浩二郎さんが農業学校への入学や移住といった大きな決断に二の足を踏む局面があっても、幸子さんの「楽しそう。行ってみたらいいんじゃない」「田舎暮らし、ワクワクするね」というような前向きで明るい後押しが、彼の不安を打ち消し、決断を力強く支えました。
学校への関心が高まった後、夫婦で丹波市を訪れて都会にはない豊かな自然と、そこで出会った人々の温かさに触れ、この地での生活に心を惹かれます。
特に、移住してすぐに地域のサポートが得られる環境や、人々の温かい交流に触れたことが、最終的な移住を決意させる決定打となりました。
また、新規就農者支援制度の年齢制限(45歳まで)が迫っていたことも、決断を後押ししました。
移住にあたっては、丹波市の移住定住相談窓口のサポートを積極的に活用し、元店舗を改装した、土間が広くて作業に便利な物件を紹介してもらいました。
さらに、自治会とのマッチングも事前に行われたため、移住後の地域との関係づくりもスムーズ。
「草刈りや溝掃除など、地域行事も自然に参加できました」と笑顔を見せる古谷さんの言葉通り、お2人は地域に溶け込み、新しい生活を謳歌しています。
農の学校について
古谷夫妻が移住の決め手の一つとしたのが、「丹波市立 農(みのり)の学校」です。
これは、兵庫県丹波市が設置し、民間事業者が運営する、全国で初めての公設民営型の全日制農業学校です。
古谷浩二郎さんは、その第1期生として入学しました。
農の学校では、特に有機農業を学ぶことができ、そのカリキュラムは実践を重視しています。
- 超実践型カリキュラム: 総受講時間の約7割が農場実習(栽培実習・実践は960時間以上)を占め、農家の四季の営みを体験的に学べます。浩二郎さんは、ここで家庭菜園とは全く違う「仕事としての農業」の厳しさと面白さを実感しました。
- 有機農業と経営の学び: 農薬や化学肥料に頼らない有機農法を科学的な視点で学びつつ、現役農家や流通事業者を講師に招いた農業経営講義、行政や会計の専門家による営農計画策定の指導など、技術と実践的な経営知識を幅広く身につけます。
- 地域との繋がり: 長年地域で活躍する農家から特産品栽培などを学ぶマスター農家研修や、地域のなりわいを視察する講座も特徴的で、在学中から地域農家や卒業生とのネットワークを築くことができます。
浩二郎さんは、この学校で就農に必要な技術と知識を身につけ、畑を耕し、種を蒔き、収穫する喜びを深めていきました。
この学びが、彼のITスキルと結びつき、効率的で計画的な農業経営の土台を築きました。
丹波みの香ファームについて
農の学校を卒業後、古谷浩二郎さんは2020年に「丹波みの香ファーム」を開き、農家として独立しました。
ファームの場所と規模
ファームは兵庫県丹波市に位置しています。
独立から5年間で徐々に規模を広げ、今ではおよそ7000平方メートル(約70アール)の土地で農業を営んでいます。
育てている野菜とこだわり
現在、「丹波みの香ファーム」では、年間を通して約20種類(または20品目以上)の野菜とハーブを栽培しています。
具体的には、カブ、ハーブ、人参、大根などが挙げられます。
トウモロコシの感動が原点ですが、多品目を育てることで、リスクを分散し、周年で収入を得ることを目指しています。
浩二郎さんが目指すのは「キレイで美味しい野菜」です。
この目標に向かい、たゆまぬ努力を続けています。
浩二郎さんの農業に対する最大のこだわりは、「畑こそが自分の看板」という意識です。
- 畑の姿勢: 浩二郎さんは「見られていることを意識して、丁寧に管理しています」と語っています。彼の畑は、常に整然と管理されており、その姿勢が地域からの信頼を生み、結果として販路の紹介に繋がっています。農業を始めるにあたり、地域の方から「ちゃんと管理できるのか?」と心配されたこともありましたが、彼の真面目な仕事ぶりはすぐに認められ、「古谷さんの畑はいつもキレイ」と評判になりました。営業活動をせずとも販路を確立できたのは、彼の真摯な農業への取り組みが評価されている証拠です。
- 販路の確立: 地元スーパーの直売コーナー、学校給食、農業総合研究所など、多岐にわたる販路を確立しており、地域に根差した農家として活躍しています。特に、栽培したカブが評判となり、継続的な取引に繋がるなど、品質の高さが評価されています。
- 妻のサポート: 妻の幸子さんは、栽培したハーブを活用し、アロマオイルやスプレーなどの製品化を手がけています。これは、多品目栽培の強みを活かし、イベントやネット販売を通じて、ファームの収益を多角化する大切な役割を担っています。幸子さんの明るい性格と持ち前のコミュニケーション能力は、直売所やイベントでの販売促進に大いに役立っています。
浩二郎さんの「キレイで美味しい野菜」への追求は、旅先で受けた生のトウモロコシの美味しさの衝撃を、今度は自分が提供する側となって、多くの人々に届けたいという純粋な想いから来ています。
農の学校を卒業し丹波みの香ファームを開いた古谷浩二郎・幸子夫妻【人生の楽園】まとめ
東京でのIT系サラリーマン生活に区切りをつけ、故郷・関西に近い丹波の地で新規就農を果たした古谷浩二郎さん、幸子さん夫妻。
旅先でのトウモロコシの感動を原動力に、家庭菜園から本格的な農業へとステップアップし、全国初の公設民営の農業学校である「農の学校」で専門的な知識と技術を身につけました。
特に、新しい生活への期待に満ちた幸子さんの「ノリノリ」な姿勢が、浩二郎さんの大きな決断を力強く後押しし、二人三脚で移住と就農の夢を実現させました。
独立からわずか5年で、7000平方メートルもの畑で年間20種類以上の野菜を栽培する「丹波みの香ファーム」を成功させているのは、浩二郎さんの「畑こそが自分の看板」というプロ意識と、「キレイで美味しい野菜」へのたゆまぬこだわりがあるからです。畑の管理の美しさが地域の信頼を勝ち取り、それが販路の確立に繋がるという、まさに誠実な人柄が実を結んだ事例です。
地域の方々の温かいサポートを受けながら、草刈りなどの地域行事にも積極的に参加し、丹波の地にしっかりと根を下ろした古谷夫妻。
彼らの笑顔は、都会の喧騒から離れ、豊かな自然の中で生きがいを見つけた喜びを物語っています。
「まだ繁忙期と閑散期の差が大きいので、年間を通して安定した収益を目指したい」と、常に前向きに課題を見据える浩二郎さんと、それを支える幸子さんの新しい「人生の楽園」での挑戦は、これからも続いていきます。
お二人が丹精込めて育てた「みのり豊かな香り」を宿した野菜は、これからも多くの人々に美味しい感動を届けてくれることでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
